1月26日日曜日の夜9時。大河ドラマ『べらぼう』第4話が放送直後で、まだ頭が「べらぼう」している中でX(旧Twitter)で開催された『蔦重を書いた歴史小説家、蔦屋重三郎について語る』(ゲスト:吉川永青、泉ゆたか、吉森大祐)を拝聴しました。
司会は谷津矢車(やつ やぐるま〉さん。ゲストスピーカーには吉森大祐(よしもり だいすけ)さん、泉ゆたか(いずみ ゆたか)さん、吉川永青(よしかわ ながはる)さんが登場され、2時間にわたる濃密なトークに、管理人は時代小説を書かれる作家の方々に初めて触れた高揚感で一夜明けても興奮が冷めやらないでおります。

今回はその感動を、本のネタバレなし、書き起こし、録音なしの記憶を頼りにまとめつつ、私なりの率直な感想をお届けします!
司会は谷津矢車さん。吉森大祐さん、泉ゆたかさん、吉川永青さんがスピーカーでした。
少し前に谷津矢車さんの『蔦重』文庫本を購入し、表紙について「わぉ!」と思ったことをツイートしました↓
昨日から読み始めた谷津矢車さんの小説 『蔦屋 』の外カバーが気持ち小さくて、不良品?と思ったら、中にもう一枚カバーがありました😆得した気分💓久しぶりの紙の本に胸躍ります📕#蔦屋 #べらぼう#谷津矢車 pic.twitter.com/ypMRe1gFDC
— いろは (@dramanihoheto) January 12, 2025
そんなこんなで、谷津矢車さんのX(旧Twitter)をフォローさせていただいているのですが、こんなツイートがあってワクワクお待ちしておりました↓
いよいよ本日夜九時から。歴史時代小説家の吉川永青、泉ゆたか、吉森大祐(敬称略)をお呼びし蔦屋重三郎、大河ドラマ「べらぼう」、そして作品についてお話を伺っていきます。スペースの告知設定をオンにしておくとお聞き逃しがないと思います!https://t.co/DWuAuyQMaC
— 谷津矢車(戯作者/小説家) (@yatsuyaguruma) January 26, 2025
驚きポイント!アカデミックで心地よいトーク
座談会に耳を傾けていて、まず印象的だったのは小説家の皆さんのお話がとてもアカデミックで、かつ心地よい美しい言葉に満ちていたことです。「悪し様(あしざま)に書きすぎない」といった表現や、歴史を深く掘り下げる中で使われる言葉のひとつひとつが耳に残りました。
これまでも小説家の方が出演するテレビ番組が好きでよく観ておりましたが、今回は、小説家ご本人の谷津さんが司会という座談会で、同じ江戸時代を描く歴史時代小説家の皆さまが4方集まると、こんなにも多様で深い会話(実際にはお一人ずつがじっくり話されるスタイルでした)が展開されることに、ただただ感動しました。

声だけで伝えられる座談会でしたが、その空気感がとても豊かで、聞いている私の心にも小説家の方々が小説を書かれる道筋や、江戸・寛政年間が広がりました。
「蔦重」をどう描くか~四者四様のアプローチ
座談会の中で語られたのは、蔦重という人物がいかに多様な視点で描かれるかということでした。4方がそれぞれの解釈で蔦重を形作り、異なる一面を引き出しておられると感じました。
蔦重の「人となり」に関する史実や記録は非常に限られており、結婚していたのか、妻の名前は何かなど、詳細は不明な点が多いそうです。そんな不確定要素こそが、小説家の皆さんにとって“遊び甲斐”のあるキャラクターとして魅力を増しているのだと感じました。

蔦重を蔦重自身からあぶりだすのか、蔦重が世に送り出した歌麿や写楽などの天才クリエイターたちから浮き彫りにするのか。視点が内なのか外なのか。という描き手側の楽しみがあると感じました。
4方の皆さまの著作と、視点の違いは以下の通りです↓
谷津矢車著『蔦屋』は、 日本橋の地本問屋・丸屋小兵衛の視点で蔦重が描かれています。
吉森大祐著『蔦重』は、蔦重が世に送り出した歌麿や写楽たちを描いた連作5編からなる短編集。
泉ゆたか著『蔦屋の息子』蔦重の息子となる勇助の視点から描かれています。
吉川永青著『華の蔦重』蔦重と妻の二人三脚・世話ものとして蔦重一代記を描く。
谷津さんの質問「蔦重がもし現代にいたら?」
司会の谷津さんが終了時間まで目一杯、とても興味深い質問をされていました。夜も更けてきたのですが、結局、最後まで聞き逃すまいと拝聴しました。
中でも「蔦重と仕事をしたいですか?」という質問はすごく印象的でした。

『べらぼう』関連の雑誌や本など読んでいると、「蔦重を現在の他の人に例えると?」というのをよく見かけます。本居宣長、小林一三、角川春樹、孫正義、ウォルトディズニー等々。あなたならこの方々と仕事をしてみたいと思いますか?
蔦重にとっての「本」や「出版」は1つのツールであって、カルチャーを無尽にひっかきまわして文化・経済を牽引していった点は、まさに現代の起業家たちの姿と重なります。
小説家の皆さんの頭に浮かぶ「蔦重」もそれぞれ違っていて、絶対一緒に仕事をしたいと思われる方あり。さまざまでした。

私自身はさておき、息子には『べらぼう』の蔦丸のように蔦重にピタッと張りついて物事の進め方、見極め、人との交渉事などを肌で感じて欲しいなと思います。かなり大変そうですが汗。
大河ドラマ『べらぼう』とのリンク
座談会では、大河ドラマ『べらぼう』についても言及されていました。歴史研究が進む中での時代考証や、1年を通して緻密に作り込まれる物語は、やはり大河ドラマならではの魅力です。制作陣が総力を結集して作り上げる「絵」。長い尺だからこそ丹念に描ける吉原や女たちの光と影なども大河ドラマだから実現できる「匠の技」だと思います。

蔦重が手掛けた吉原細見や一目千本も美術スタッフさんが美しく再現されていますし「路考髷」や「路考結」など、ネットで調べても実際にはどんな形なのかにたどり着けなかったのですが、第4話で映像が流れておぉーと思いました。
特に、『べらぼう』第4話で、ザ・悪役と印象づけられた鱗形屋(片岡愛之助さん演)や、これから登場する丸屋小兵衛、喜多川歌麿など、ドラマに登場する人物たちをめぐる解釈の違いも興味深い話題でした。それぞれの物語に紡がれる江戸時代のカルチャーは、まさに現代の私たちがそこに触れるための大きな扉となっているように思います。
『べらぼう』の見逃し配信がどこで見れるかは知りたい方はこちらでご紹介しています↓
大河ドラマ『べらぼう』の1話からのネタバレあらすじと感想はこちらから↓
大河ドラマ『べらぼう』のキャストまとめはこちらから↓
※大河ドラマ『べらぼう』はU-NEXT経由のNHKオンデマンドが見放題配信中です。
「大河ドラマ」と「小説」に思うこと。

親世代の大河ドラマと小説の楽しみ方
管理人は、小さい頃から大河ドラマの放送をきっかけにその原作小説を読んで、その一年間大河ドラマで描かれる時代と世界観にどっぷりつかる。という娯楽体験を積んできた世代です。
思い起こせば、以前の大河ドラマは原作小説があって、親が大河ドラマの原作本を読んでいる姿を見て大きくなりました。うっすら覚えているのは、分厚い『樅の木は残った』がテーブルの上にあって、母が夢中で読み返している姿。

私も、大河ドラマでは「原作からどれだけ膨らませているか」を見るのが楽しみで原作を読んでいました。
その頃の感覚は「小説の大河ドラマ化」でしたが、今は原作小説のない大河ドラマが主流なので、NHKドラマの『坂の上の雲』で追体験しています。ちなみに『坂の上の雲』の語りは渡辺謙さん。私にとっては司馬遼太郎さん=渡辺謙さんです。
『坂の上の雲』についてはよろしければこちらの記事もどうぞ↓
主人公のイメージが固定される?
歴史上の実際の蔦重は「吉原の申し子」であったこともあり「粋」ではあったと思いますが、横浜流星さんのようにカッコよくも、いい男でもなかったと思います。もし蔦重が平賀源内の恋人の菊之丞のようにビジュアル的にイケていたら、「路考髷」や「路考結」のように、蔦重自身が広告塔となって露出する戦略を本人も考え、周りの絵師も放っておかなかったと思います。
だからきっと、実際の蔦重はこの通りの感じの人↓

作家や歴史の専門家の皆さまは、蔦重=横浜流星さんと印象づいてしまうのに、当初はとまどいを感じられるかもしれませんが「蔦重と江戸時代のカルチャーへの入り口」が横浜流星さんと考えると、その入り口は茶室の躙り口のような狭き門ではなく、大河ドラマスタッフさんが作った高さ5メートルの吉原大門や、浅草寺の雷門ほど大きな門だという気がします。
管理人も今年の大河ドラマ『べらぼう』がなければ、歌麿や北斎の展覧会には行っても蔦重には気づかないで一生過ごしていたかもしれません。「入口」として大河ドラマが果たす役割は非常に大きいと思います。
たまたま蔦重は「本」であり、出版業界で活躍しましたが、蔦重は物品販売も行っていたようなので、前述したように蔦重が流星さんのようにイケメンだったら、菊之丞のように自らがインフルエンサーになって「路考髷」や「路考結」など、カルチャーをひっかきまわして流行を作ってのかもしれません。
蔦重の時代の出版が今のSNSやプラットホーム、インターネットだと思いますし、ポップカルチャーにとどまらず、境界を越えていく蔦重とクリエイターたちの生みの苦しみと成功と影は、時代を超えて今に通じる価値観だと思います。臨場感たっぷりに味わいたいです。
『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』大河ドラマスペシャルコラボで、蔦重と現代の「一億総クリエイター時代」の共通点が面白い切り口で解説されていました↓
何が誰が | 現代 | 江戸時代 |
世の中は? | 平和 | 天下泰平 |
爆誕したのは? | SNS、ネット、プラットホーム | 出版 |
今と蔦重 | パロディー本 | 狂歌本 |
〃 | 大人向けマンガ | 黄表紙 |
〃 | 有名人ポスター? | 浮世絵 |
今と蔦重 | 新ジャポニズム | ジャポニズム |
小説で楽しむ『蔦重』の世界
最後に座談会に登場された4方の小説家が手掛ける『蔦重』関連の著作をご紹介します。
それぞれの作品が描く蔦重像を楽しむことで、大河ドラマ『べらぼう』も、そして江戸時代の文化や人物の奥深さをより感じることができます!
谷津矢車著『蔦屋』は、 日本橋の地本問屋・丸屋小兵衛の視点で蔦重が描かれています。
吉森大祐著『蔦重』は、蔦重が世に送り出した歌麿や写楽たちを描いた連作5編からなる短編集。
泉ゆたか著『蔦屋の息子』蔦重の息子となる勇助の視点から描かれています。
吉川永青著『華の蔦重』蔦重と妻の二人三脚・世話ものとして蔦重一代記を描く。
これらの小説を通じて、蔦重という人物と江戸時代中期の文化のポップでロックな奥深さを改めて感じることができると思います!
まとめ
今回、初めて歴史時代小説家の方々の座談会を拝聴して、小説家の方々の言葉の選び方や、蔦重の見方、描き方といったものを肌で感じて感動しました。
谷津さんの『蔦屋』は読みましたが、あと3作も購読して、小説と大河ドラマの両方をべらぼうに楽しみたいと思います!あなたも「蔦重」と「べらぼう」を通して江戸のポップカルチャーに思いを馳せてみてはいかがでしょう。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。
「べらぼう」の言葉の意味や語源についてはこちらから。よろしければどうぞ↓
TSUTAYAと「蔦屋」の関係は?
3か月でマスターする江戸時代について。よろしければこちらからお読みいただけます。
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